連成シミュレーションフォーラム

連成シミュレーションフォーラムは、 自然界に広く存在する多階層に渡る複雑な現象を研究対象とし、 計算機を使って再現するための連成シミュレーション、 それぞれの階層の記述に使われる物理学、化学、生物学の実験や理論、 さらに複数階層を統一的に表すための理論的枠組、など、 数学から計算科学に至る広い分野の話題について議論する場である。

(注1) 分子科学分野における連成シミュレーションを主題とした研究会は、
愛知県の岡崎市において2007年度前期の分子研研究会として行なわれた。

(注2) 第三回 連成シミュレーションフォーラムは、
九州大学産業技術数理研究センター主催、 九州大学情報基盤研究開発センター共催の形で、
第三回九州大学産業技術数理研究センターワークショップとして開催される予定。


連成シミュレーションとその周辺 (文責: 高見、ただし未完)

以下の文章は、物質科学、数理科学と計算科学の すべてを含む形で形成される「連成シミュレーション」という研究分野に関して、 その背景から研究の大まかな目的についてまとめたものです。 ただし、基本的には、 今後のフォーラムでの討議を経て明確にされていくものであるため、 現時点では、明確に記述されていない部分があることを御了承下さい。

連成シミュレーションは非常に広く行なわれている計算手法であり、 今後益々発展すると考えられる大規模な数値計算を利用した研究や開発には 欠かせない技術であるが、物理や数学の理論的な観点からは、 必ずしも十分に整備されているとはいい難い。

計算機をめぐる環境

計算機の能力の発展は相変わらず留まるところを知らない。 ここ数年は、高性能のパーソナルコンピュータ(PC)が安価で入手できるようになり、 各研究室でも数台から数十台の計算機クラスターを運用しているのが 当たり前になってきている。 しかし、多数の計算機を効率良く安定に運用しようとすると、 かなりの管理の手間を必要とするため、実際には、 電源は入っているものの利用されていない計算機も多いことと考えられる。

このような状況を改善するために、グリッドミドルウェアの開発が進められている。 当初は、遊休計算機資源の効率利用という観点から グリッドの必要性が考えられたこともあったが、 現在では少々位置付けが変わり、世界各地に広がった大規模な計算機を 安定に効率良く利用するために必要なソフトウェアとして、 各国で開発が進められている。 日本国内では、原研や理研が中心となったITBLというプロジェクトの後に、 NII主導でNAREGIというプロジェクトが進められて来たが、 来年度からは次世代汎用計算機プロジェクトが本格的に動きだすため、 この中で引続き開発が進められることとなっている。

連成シミュレーション

計算機による連成シミュレーションの例は実に多様であり、 気象や地球物理から構造力学などの工学的な応用まで非常に広い範囲の 対象がシミュレーションされている。 多階層に渡る異なったスケールを持つ現象を、 一つの原理のもとでシミュレーションするには計算機パワーが足りないため、 現実的には連成シミュレーションという形をとらざるを得ない。 しかし、自然がスケールに応じてダイナミクスを変化させるという 複雑な芸当をやっているとは思えないため、 計算機の都合で勝手に階層に分けるのはまずい気がする。 ここに連成の理論を考える余地があるのだが、 その前に、別の見方も考えておこう。 確かに自然がただ一つの原理原則のもとで動いているという考え方からすれば、 勝手に階層に分けるのは間違っているように見えるが、 現実問題として自然は非常に広い空間・時間スケールに渡って さまざまな現象を見せてくれており、 観測者のスケールに応じて見えてくる現象も異なっているように思える。

物理現象の階層性

最近はマルチスケール/マルチフィジックスという言葉がはやっているらしい。 ことさらにこのような言葉を使わなくとも、 昔から研究対象として扱われてきている面白い物理現象は、 実はマルチフィジックスであったというものが多い。 本来であれば複数の理論を使って表現すべきところを、 技術的な難しさから一方の理論は近似的に扱って簡略化する という方法がとられているため、 もともとの問題の階層性が注目されない場合が多いのである。

しかし、現実の自然現象は多数の階層の上に成り立っているように見える。 たとえ物理現象を表す原理として一つの統一理論があったとしても、 実際に見える現象は空間や時間のスケールに応じて異なる様相を呈しているため、 現実的にはこのような現象をそのままの形で扱うことが望まれる。 例えば、身近な物質を計算機で第一原理からシミュレーションをするためには、 アボガドロ数に近い多数の粒子を扱うことが必要になる場合があり、 現代の計算機を持ってしても不可能である。

連成系を扱うための理論研究

階層間の分離に関して何らかの極限操作が可能な場合には、 比較的理論的に扱うことがやさしい場合があり、 これまでも多くの理論で試みられてきている。
Last modified: Fri Jan 25 15:39:44 JST 2008