番号 | 著者 (所属) |
タイトル、アブストラクト |
P01 |
松本 正和 (名古屋大学 物質科学国際研究センター) |
「ネットワーク性液体の液液相転移と結晶核生成」
過冷却液体シリコンがどのように液液相転移し、ガラス化し、結晶化するか、
シリコンに潜むナノスケールの不均一性がそれらの過程にどのように絡んでいるか、
同じくネットワーク性である水の特異な物性との関係などについて最近わかったこと、
わからないことなどを議論したい。 |
P02 |
朽津 敬史,志賀 基之,立川 仁典 (横浜市立大学 国際総合科学研究科) |
「電子状態の時間発展をあらわに解いた分子ダイナミクス」
分子の計算において,
軽くて速い電子の運動と重くて遅い原子核の運動が分離できると仮定する
Born-Oppenheimer(BO)近似の適用は大きな成功を収めてきた.
近年では原子核の感じるポテンシャルの交差など,
BO近似では記述できない現象が注目されているが,
多原子分子の電子・核ダイナミクスを精密に解くことは,
現在の計算資源をもっても難しい問題である.
本研究では分子の低電子励起状態での電子・核ダイナミクスを,
基本原理からより直接的に計算する枠組みとして,
電子状態の第一原理計算と
半古典ガウス波束ダイナミクスを組み合わせた
ab initio量子波束法を提案する.
本手法は複素ガウス型関数の線形結合により
電子と軽い原子核の多成分波動関数を描き,
複素ガウス型関数に含めたパラメータと線形結合の重みを
時間依存シュレディンガー方程式から導いた運動方程式により
時間発展させる方法である.
現在のプログラムでは多体問題をHartee-Fock近似により記述し,
電子の時間スケールで時間発展を行う.
適用範囲としては,分子の紫外励起状態からの
緩和ダイナミクスの計算が挙げられる.
特に,ピコ秒程度の時間スケールでavoided crossingを通って
緩和する系などを考えている.
分子の低励起状態にFranck-Condon的に電子を励起させ,
その後,電子状態から分子内振動にエネルギーが流れるダイナミクスを解く.
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P03 |
阪上 雅昭 (京大人環) |
「長距離相互作用系の準安定状態」
著者はこれまで重力で相互作用する重力多体系の非平衡進化を研究してきた.
この系の準定常状態はTsallis エントロピーの極大状態であるポリトロープ状態で
記述されることが,数値シミュレーション等により示されてきた.
本発表では,
他の長距離相互作用系である HMF モデル (Hamiltonian Mean Field model)
での結果を報告する.このモデルは各スピンが平均場と相互作用するものである.
この系に対する数値シミュレーションの結果,
熱平衡状態への準定常的な緩和の存在が確認され,
さらにその状態がポリトロープで記述されることが判明した.
また,ポリトロープ状態が出現するために,
相互作用が長距離であることが重要な役割を果たしていることを説明する.
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P04 |
本池 巧 (湘北短期大学 情報メディア学科)、有光 敏彦 (筑波大学 数理物質科学科) |
「n(>2)∞ 周期軌道のベキ的軌道不安定性とマルティフラクタル構造の関係」
写像力学系では、無限の n(≧2) 倍周期化によって
n∞ 周期軌道が発生することが知られている。
この軌道はストレンジアトラクタと違ってベキ的な軌道不安定性を持っており、
ベキの指数が f(α) スペクトルの α の
最大値および最小値で与えられることがLyra(1998) らによって示された。
Lyraらの関係式は、
有光・有光の乱流のマルティフラクタル解析の鍵のひとつとなっているが、
いままでは、n=2 の場合についてしか検証が行われていなかった。
今回、n>2 の一般の場合について
Lyraらの関係式の詳細な検証を行った結果を報告するとともに、
乱流のマルティフラクタル解析の一般化について考察する。
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P05 |
伊藤 三香、田中 成典 (神戸大学大学院 人間発達環境学研究科) |
「核内受容体における分子レベルの情報伝達:FMO法によるアプローチ」
核内受容体(NR)は、リガンド誘導性転写制御因子として機能することで、
広範多岐にわたる高等動物の高次生命現象に関わる標的遺伝子群の発現を
転写レベルで制御する。
NRの転写促進能には、
リガンド結合によるNRのリガンド結合領域(LBD)のC末端に位置する
へリックス12(H12)の変位、
およびそれに引き続くH12内部の転写促進能活性化領域コア(AF2 AD core)と
コアクチベーター内のLXXLLモチーフとの接触が必須であることが知られている。
しかしながら、NRの転写促進能に不可欠なこの一連の反応の中で、
リガンドとは直接接触していないH12が、
リガンド—レセプター—コアクチベーター間の情報伝達において、
どのような役割を果たしているのか、その詳細は十分明らかにはされていない。
本研究では、NRの一つであるレチノイドXレセプター(RXR)を取り上げ、
その転写促進機構におけるH12の役割について、
分子動力学法とフラグメント分子軌道(FMO)法を用いた解析によって検討する。
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P06 |
宮口 智成 (北海道大学 電子科学研究所) |
「非平衡揺らぎと非線形応答」
まず揺らぎ定理から、
揺らぎ定理と等価な、キュムラントに関する方程式系を導出する。
さらに、この関係式から非線形応答公式(Andrieux and Gaspard, 2007)が
容易に導出できることを示す。一方、こうした結果を用いて、
2次元剛体球系における熱伝導を、
数値的に詳しく解析した結果について報告する。
具体的には、非線形応答領域で、
累積熱流が上記のキュムラントに関する関係式を満たしていることを確認した。
また、局所平衡と非線形応答との関係についての数値実験結果についても紹介する。
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P07 |
長谷部 高広 (京都大学 数理解析研究所) |
「ホワイトノイズ解析」
「ホワイトノイズ解析」
自然界のランダムな現象の記述をしようとするとき、
確率解析が重要な役割を果たす。
特にブラウン運動はランダムな現象の基本となるものであるから、
これの解析をすることは大きな意味がある。
ホワイトノイズ解析ではブラウン運動の微分(ホワイトノイズ)
に対して数学的に意味を与え、
一般のランダムな量をホワイトノイズの汎関数と考えて解析する。
様々な分野との交流があって、
たとえば物理学、生物学などに応用がある。
中でも場の量子論とのつながりはとても深い。
今回は主に場の量子論との関係を強調して、ホワイトノイズ解析の紹介をしたい。
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P08 |
原田 僚 (京都大学大学院 理学研究科) |
「量子観測における増幅過程の記述 -- Stern-Gerlach実験を例として --」
量子観測においては、ミクロな量子系における情報が
マクロスケールで識別可能なデータとして認識されるための
非自明な過程の存在が本質的である。
小嶋泉氏の「ミクロ・マクロ双対性」の枠組は、
ミクロ量子系とマクロの観測データとの関係を
圏論的随伴(adjunction)として捉える見方であるが、この文脈に基づいて、
上記のような情報の変換過程を「増幅過程」として理解することが可能になる。
この増幅過程の記述は理想的な状況下での観測スキームであるが、
異なる階層の相互関係を理解する上での本質的な側面を記述していると考えられる。
発表では、Stern-Gerlach実験などの具体的な観測過程と比較しながら、
増幅過程および、ミクロ構造とマクロ構造の相互関係についての
物理的・具体的描像の深化を目指す。
この発表の内容は、小嶋泉氏との共同研究に基づく。
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P09 |
大久保 潤 (東京大学 物性研究所) |
「膜輸送や分子モータのモデルにおけるポンプ・カレントと幾何学的位相」
ポンプ・カレントとは,周期的に変化する反応速度定数に伴い生じる流れである.
これは細胞内での膜輸送のモデルや分子モータなどと関連しており,
非平衡系の研究対象として興味深い.
これを空間スケールの階層性の問題として捉えることも可能であり,
また少し違った見方をすれば「状態」と「過程」という
別の階層を見ているとも考えられる.
すなわち,体系の「状態」は周期的な変化によって元に戻ってくるが,
流れという「過程(ダイナミクス)」に着目すると
変化が生じているという点において,
ある意味では「別の階層」に属する変化を扱っている.
「階層性」という切り口を考えた時,
時間・空間スケールの階層性という問題のほかにも,
このような「状態」と「過程」という階層性の問題もまた,
今後の生命科学などの発展には欠かせないだろう.
近年,ポンプ・カレントとBerry位相との関連性が指摘された.
これにより,幾何学的位相やファイバー束という数学的な概念を用いて
「流れ」に関して考察できるようになり,
「状態」と「過程」のような階層性の問題を数理的に考える上での
一つの有効な手段になることが期待される.
発表では,Floquet理論を用いることにより,非断熱的時間発展の場合において
Aharonov-Anandan位相からポンプ・カレントを具体的に計算できることを示す.
また,「状態」と「過程」の階層性の問題や
ファイバー束による解釈の有効性などについても,今後への展望も含め,議論したい.
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P10 |
三ツ井 孝仁 (早稲田大学大学院 理工学研究科) |
「臨界的且つ準周期的な勾配系の漸近挙動」
近年,非カオス系においてstrange nonchaotic attractorやpseudochaosなど
リヤプノフ指数が負またはゼロのランダムダイナミクスが研究され,
カオスと秩序の間のギャップを埋めるクラスとして注目されている.
今回我々は,臨界的且つ準周期的な勾配を持つ連続力学系:
Marginal Quasiperiodic Gradient System (MQPGS)を提案し,
その漸近挙動に対する解析結果を報告する.
この系は制御パラメータが無理数のとき,
タイプI間欠性に類似しメカニズムにより,
持続性のある遅い運動と短い間の速い運動の交替(淀み運動)を引き起こす.
滞在時間のセル位置に対する数論的構造を反映し,
変位 x(t) の漸近挙動は入れ子型のlog補正を伴った式で書ける.
変位 x(t)は「淀み運動の合間の速い移動の回数」であるから,
臨界パラメータ(z=2)のPomeau-Manneville(PM)写像における更新関数
H(t) (=バースト回数の期待値)と比較できる.それぞれの漸近挙動の違いは,
MQPGSでは滞在時間が数論的な順序構造を持つのに対し,
PM写像ではカオスによって滞在時間がランダム過程となっていることに起因している.
[1] A. Prasad et al.,
Int. J. Bifurcation Chaos Appl. Sci. Eng. 11 (2001) 291.
[2] G.M. Zaslavsky, Phys. Rep. 371, (2002) 461.
[3] T. Mitsui, arXiv:0801.1370.
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P11 |
伊藤 篤史 (名大理), 中村 浩章 (核融合研) |
「Diracデルタ関数を用いたエネルギー流と応力テンソル」
我々は分子動力学シミュレーションを用いて、
水素によるグラファイトの破壊を研究している。
プラズマ閉じ込め核融合炉内における
水素プラズマとグラファイト炉壁の相互作用に関する研究である。
破壊の課程は非平衡減少であり、
平衡状態における統計物理量の計算を用いることは出来ない。
これは非平衡下における破壊のダイナミクスを定量的に解析するための物理量が
不足していることを意味する。
そこで我々はDiracデルタ関数を用いて粒子の位置に局在するような物理量の場を考え、
連続の式から粒子スケールにおけるエネルギー流や応力テンソルの導出を行った。
本発表ではこれらの導出法を示し、
さらに、実際の分子動力学シミュレーションへの応用結果を見せる。
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P12 |
川畑 弘、田地川 浩人、松重 和美 (京都大学大学院 工学研究科) |
「水吸着によるカルボニル−金属イオン対の失活メカニズム」
カルボニルと金属の相互作用により形成されるイオン対は、
その周囲に水分子がたかることにより失活(解離)することがよくしられている。
我々は、イオン対のモデルとしてアセトンやフルオレノン、
ベンゾフェノンとアルカリ金属の1:1錯体の活性が
水分子の接近によりどの様に失われるかを、
軌道計算やダイレクト・ダイナミクス法により調べている。
その結果、「2個程度の水分子が金属に接近するだけでイオン対は解離すること」
「5個以上の水分子が存在する場合は、金属原子を水和し、
水とカルボニル部位での電荷移動が生じる」ことを明らかにしている。
本発表では、ダイレクト・ダイナミクス法による、
電荷移動サイトの変化についてあわせて報告する。
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P13 |
高江洲 俊光 (九大数理) |
「相対論的量子電磁力学におけるスペクトル解析 −ミクロ・ミクロ相互作用系の数理−」
量子系における階層構造として、量子力学によって説明がつく現象と
粒子の生成・消滅の影響を考慮しなければならない現象にわけることができる。
ここで、前者をマクロ、後者をミクロな視点からの系だとみなすと、
この10年で大きく進展した粒子と量子場が相互作用する系のスペクトル解析とは
マクロ・ミクロ相互作用系の解析ととらえることができ、
異なる階層構造が相互作用する系として大変興味深い。
この研究に引き続く課題として物理的に最も重要となる
場と場が相互作用する系の解析があるが、
この研究はまだほとんど解析が進展していない。
そこでまず、電子の場と光子の場が相互作用する
相対論的量子電磁力学におけるハミルトニアンについて考察し、
基底状態の存在および漸近場の存在を示すことができた。
しかし、用いた手法は
いずれも粒子と量子場が相互作用する系の解析で開発された手法であり、
これからの研究で粒子と場が相互作用する系との違いを明らかにし、
さらにその解析を進める手法を探っていきたい
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P14 |
森 信之 (九看大)、森 肇 (九大)、富永 広貴 (佐賀大)、石崎 龍二 (福岡県立大)、黒木 昌一 (福岡女子大) |
「カオスのランダム化への射影演算子法によるアプローチ」
カオス軌道は,軌道不安定性のため正のリャプノフ指数を持ち,
短いタイムスケールでは決定論的で予測可能であるが,
長いタイムスケールでは初期状態の記憶を失くし,確率論的でランダムになる.
このカオス軌道の「ランダム化」を理解するために,
非平衡統計力学における“森の射影演算子法”を
カオス力学系に援用することによって,
揺動力と記憶関数を含んだ,
マクロ変数に対する線形非マルコフ確率方程式を定式化する.
これによりカオス軌道は,組織的な運動とランダムな運動とに分解される.
この,射影演算子法によるカオスの「ランダム化」へのアプローチに関して,
低次元カオス系での具体的な数値計算結果も含めた研究結果を報告したい.
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